【店を間違える客と、自分との信頼関係について】

 

風俗業界に関わって15年目の私だが、たった一度だけプレイを中断したことがある。

裸にならないお触りNGの店での執拗なボディータッチ、過剰サービスの要求・強要だ。

 

はじめは「あら、こんなところにいけない御手手があるわ」「どこを触ってるのかしら?」などと言いながら伸びてくる手を捕まえてシャワーに誘導、ムードを壊すことなく笑顔で身体を流してベッドまで案内した。

 

当時新人だった私がまだ店のルールを把握していないとでも思ったのだろうか。

「触っちゃ駄目だなんて聞いてない」

「前の子は触らせてくれた、脱いでくれた」

などと言いながら私の腕を掴み脚を掴み、引き寄せ、尻を撫で、下着に手をかけようとする。

しばらくは柔らかい言葉と動きでかわしていた。

 

そんなやりとりをしているうちにプレイ時間も後半に差し掛かったが、彼はしつこい。「ちょっとお店に電話して、(プレイ内容を)確認しましょうか」と提案したところで「もういい、お前、帰れ」と荒々しく吐き捨てられた。

即プレイを中断し、店に電話。その間に彼は私の荷物をぶちまけていたが、何も言うことなく静かに物を拾い、カバンに詰め、早々と帰る準備をした。

 

 

 

【店を間違える人々】

彼は客だったのだろうか?

答えは否だ。

 

どこかの風俗店の客にはなりうるだろう。だが少なくとも私の客ではないし、当時在籍していた店の客でもない。

 

私は常に、自分のキャパシティ(主に許容できるプレイ内容)と求める給与に合わせ、店を選んでいる。当時で言うと、多少収入が落ちても自分の心身の消耗を最低限に抑え、傷つきにくい店を選んだ。具体的には自分が受け身にならず、脱ぐ必要もなく、完全男性受け身で相手から触れられることもないプレイ内容の店だ。粘膜同士の接触もない。

 

「一緒に気持ちよくなろう、その方がいいでしょ?」と彼は私の股に顔を寄せて来たが、私はそんなことを全く望んでいない。

私は気持ちよくなりたいんじゃない。触られることなく、できるだけ安全に、普通のバイトよりも少し多めの収入が欲しかったのだ。

 

私の提供できるサービスと、彼の求めるサービスは、違った。

彼は女の子を触りたかったし、なんなら自分も攻めたかった。

来る店を間違えている。

(正直、他の店に案内するのも嫌だ)

 

これが本当に彼のウッカリだったら、まだ救いはあったかもしれない。

「いやー、てっきり女の子を攻めていい店かと思った!今度から気を付けよう!」で済む話で、私が彼に対して嫌悪感を抱くこともなかった。

 

だか彼は、お店のルールやプレイ内容を知った上で過剰サービスを要求した。

確信犯だ。

お触りNGの店で出会った女の子がどこまで自分の要望に応えてくれるのか、ルールの範囲を超えたサービスをどれだけ得ることができるのかのゲームをしに来たのだ。

 

私はそのゲームに乗る気は無い。

私の客でもなければ、相手すべき人でもない。

 

 

 

【過去の私】

私はこれまで幾度となく「店を間違える客」と出会ってきた。

抜きなし店での抜き交渉。

本番なし店での本番交渉。

スキン着用店での着用拒否、などなど。

 

いつもがいつも、対等な交渉とは限らない。時には腕力や言葉の圧でこちらを押さえつけ、コントロールしようとする者もいる。

彼らの多くは自分の思い通りに事が進まない時に不機嫌を態度で示してくる。こちらが悲しむように、ダメージを受けるように、罪悪感や自責の念に囚われるように、さも自分が正しいことを言っているかのように振る舞う。

彼らとのやりとりは、私たちを疲弊させる。

 

過剰サービスの要求を断られた人たちは、腹いせか本気なのか、“サービス地雷” “ハズレ嬢”などとネットの掲示板に書き込む事があるのだが、たまに“本番可能”などのデマを流す人もいる。これが厄介だ。

そんなデマ情報を見た人が来店してさらに過剰サービスの要求が増えるのだが、それらを断ることでますますネット上で叩かれることになる。

 

このクソみたいな悪循環に神経をすり減らした経験があるのは、きっと私だけではないはずだ。

 

それでも私は随分と長い間、自分が悪いと思っていた。「お客様に機嫌良く帰って頂けない自分が未熟なのだ」と。

上手くかわしてこそのプロだという考えがあったので、それができていない自分は、自分の中でダメな嬢だった。ハズレ嬢と言われるのにも納得していた。

 

もちろん相手の機嫌を損ねることなく上手くかわすコミュニケーションスキルとセンスは高めて損はない。だがそれらが未熟だとして、なぜルール違反や過剰サービスの要求・強要を断った自分が悪いことになるのだろうか?

私たちは大抵過剰サービスを求めてきた相手に対して即攻撃をしたり、必要以上に傷つけたりはしていない。あなたの気持ちは分からないでもないが、私はあなたの希望に応えられないということを 言葉を選んで伝えているのだろう。それこそ始めは相当優しい声色と雰囲気で、柔らかくお断りをしているのだ。

 

その前提がある上で相手が怒り出すとしたら、それはもう私たちの問題ではなく、相手の問題だ。

 

あなたには、常に問題は自分にあると考える癖はないだろうか?

私にはあった。

私には、相手に苛立つ勇気がなかった。

自分を責めている方が、ずっと楽だったからだ。

 

 

 

【店を間違える我々】

非常に残念なのだが、提供側にも居場所を間違える人間がいる。抜きなしの店で抜くキャストや、本番なしの店で本番を推奨する運営等だ。

彼らは公言している以上のサービスを提供する。業界のルールを踏みにじり、時には違法行為に手を染めながら、過剰サービスを要求するユーザーを生み出し続ける。

 

この記事を読んで下さっている殆どの人が、風俗で働く女性、「風俗嬢」だと思う。なので「風俗ユーザー」と聞けば男性を思い浮かべるだろうし、「風俗キャスト、プレイヤー」と聞けば女性をイメージするのではないだろうか。

だが実際の風俗店は、女性キャストによる男性客向けのものだけではない。女性向け風俗やレズ風俗、ゲイ風俗などがあり、我々誰しもがユーザーにもキャストにもなりうる。男性も女性もだ。

 

プレイヤー目線で、ルール違反をする客を生み出してはいけないと考えている。

だがユーザー目線でも、ルール違反をするプレイヤーを育ててはいけないとも思っている。

 

ユーザー目線について、少し具体例を出そう。

男性セラピストによる女性向けの性感マッサージ店を利用したら、本番行為に持っていかれた、断れなかった。一時期はそんな相談を多く受けていた。

その男性セラピストがどういうつもりで本番行為をしたのか私には分からない。

性感マッサージで満足してもらえる自信がなかったのかもしれない。女性がセックスをしたがっていると思い、サービスとしてセックスをしたのかもしれない。単純にセックスをしたくなってしまったのかもしれない。

真意は分からない。

ただ、その中のどれであっても、それ以外の理由であっても、私たちユーザーはそれを断らなくてはいけない。たとえそれが相手からの好意であったとしても、だ。

 

断れなかったことを責めるつもりはない。密室で自分よりも力の強い相手と2人きり、興奮した相手を目の前にして混乱することもあるだろう。そうでなくても「NO」を伝えることに抵抗がある人が多いのは知っているつもりだ。

今こんな記事を書いている私だって、いざ自分の身にそんな事が起これば、その場では何も言えないかもしれないのだ。

 

だとしても、知っておいて欲しい。私たちには「NO」「それは要りません」と言う権利があることを。

 

もし男性セラピストに「NO」が伝わらず、「セックスをしたことで女性客が満足した」と思い込んだとしたら、どうなるだろう?そんな経験を重ねた彼は、セックスサービスの提供をやめるだろうか?

私はそうは思わない。性感マッサージ店で本番をするセラピストとして、彼は仕事を続けるのだろう。

そのあとは過剰サービスを求める女性客が増えるか、セックスに傷付く女性が増えるかだ。

どちらにしろ最悪だ。

 

 

 

【まとめ】

私は元々美容師をしていた。

カット中にお客さんから胸を触られたり、脱げ、やらせろなどと言われることはなかったが、なぜか性風俗業界ではそういう事が当たり前のように起こる。

そしてそれを店のスタッフから「挨拶みたいなものだから」「そういうこと言われるってことは、女性として魅力があるってことだから」などと宥められ、なんとなく納得してきてしまったのが過去の私だ。こういう言葉をぶつけられるのが当たり前な業界なんだな、と。悲しかったり怖かったりするから給料が高いんだな、と。

でもきっとそうじゃない。どれだけ当たり前だと思おうにも納得なんてできないし、不快なものは不快だ。

そもそも私たちの提供するサービスに「過剰サービスの要求や不躾な提案を優しく断る」なんてプレイは無い。私たち提供側がそれらを「当たり前」にしてしまえば、今後もユーザーからの過剰サービスの要求・強要は減らないだろう。

 

「(過剰サービスを)してくれたら、また指名するから」

余談だが、私はこの文言が大嫌いだ。

絶対にやらない。するわけがない。

この、目の前の、過剰サービスを要求してくる相手の顔なんか、二度と見たくないのだ。二度と指名されたくないのだ。

こちらにメリットなど一つもなく、交渉にもなっていないことに相手が気づいていない事が腹立たしい。あなたにまた指名して欲しいと私が思っているとでも?馬鹿馬鹿しい。

 

たった一度でも許してはいけない。「ルール違反を受け入れた」という事実を作ってはいけない。

相手が「あの時はやってくれたのに!」などと言い出してめんどくさいから、なんて理由ではない。

その事実が、私たちの自分自身への信頼を失わせるからだ。

 

信頼できない自分自身と生きていくことは、つらい。自分の選択や決断がを信じられなくなる。「本当にこれでよかった?」「私は間違っていないか?」「私が悪いのではないか?」そういったことで頭がパンパンになってゆく。

自分を敵に回している場合ではない。消耗している場合ではない。

どこにいたって、私たちはただ、機嫌よく生きて行きたいのだ。

 

お客様との良好な関係を築いて行くには、相手のことを考える心の余裕が必要だ。

心の余裕とは、言い換えれば自他のバランスを取る事だ。

自分自身への信頼を失って、頭の中が自分のことでいっぱいになっている時に、相手を想い、相手目線に寄り添うのは難しい。かと言って、自分のことは二の次で相手のことばかり優先するのもバランスが悪い。

 

自分の中で、自分も相手も同じぐらい大切にする。

お客さんも、お客さん自身と私を同じぐらい大切にしてくれる。

そんな関係を築いてゆける風俗キャストが増えて欲しいと、切に願っている。

 

 

 

では、また。

 

 

 

この記事を書いた人

mari 珍

mari 珍

mari珍
コーチングカウンセリング
風俗技術接客講師
写メ日記コンサル
マッサージ(性感ケア対応)
イラストレーター等。